「祝島のたたかい」を出版された山戸貞夫さんと、広島でお会いしました。

「ミツバチの羽音と地球の回転」が完成して、東京での劇場公開の真っ最中に 3.11が起きました。その後、怒濤のように日々が過ぎてしまい、その怒濤の中で「内部被ばくを生き抜く」を撮影・編集・完成・上映、と息つく暇もなく「小さき声のカノン」の制作にとりかかりました。
そんなこんなで、私は祝島にすっかりご無沙汰をしています。

3.11が起きたので、中国電力の上関原発計画は今は凍結されています。
しかし、3.11直前の上関の状況は危機的でした。中国電力が総力を挙げて、埋め立てを強行しようとしていましたし、それに海上保安庁や経産省、山口県も加担していたのですから、凄まじいものでした。あれから2年と6ヶ月が経って、久しぶりに祝島の島民の会代表を29年務め、今後任に代表を譲った、は山戸貞夫さんと広島でお会いしました。
山戸さんの新しい本が岩波から出版されたのです。
「祝島のたたかい」と題されたこの新著、読ませていただきました。http://p.tl/91Wy
「祝島のたたかい」山戸貞夫さん著

「祝島のたたかい」山戸貞夫さん著


 
30年に及ぶ闘いの経緯が緻密な資料を駆使して語られています。誰も、否定できない、生の記録がこの本にぎゅっと詰まって、非常に資料性の高いものになっています。いったいどうやったら祝島のたたかいは30年も持続したのか、これを読めば解ります。
中国電力がどんないやがらせの文章を送ってきたのか、それにどう対抗したのか、裁判はどうやって起こされ、どんな経過をたどったのか、阻止行動はどのように進化していったのか、祝島という地域性を超えて普遍的な市民の抵抗運動へつながるようなヒントも埋め込まれているような気がします。
電力会社の作戦はいつも分断工作にあります。島の人々が原発反対を一致団結して貫いたその影にいったいどのような工夫とそして犠牲があったのかもこの本には書かれています。
私にとって、一番響いたのは、外からの応援が島にとってどのような意味があったのか、という点です。そこには予想以上に厳しい意見が書かれていました。
あ〜厳しいなあ、と思ったのですが、30年の島の人々の言うに言われぬ苦労のディティールを知ると、この本に書かれている100倍は大変だったのだろうなあ、と想像できます。そのような重い、歴史をつまびらかに知る事なしに軽い事を言えない、とも感じました。
これは私たちに課せられた大きな課題です。福島の人々の本当の大変さや心の底に押し込めた気持ちを知る事なしに、外から意見を言ってはいけない、というか、言えないと思うのです。まずは、耳を傾け、知り、理解し、共振できたら、と思います。
その広島での山戸さんとのお話は岩波の「世界」という雑誌に掲載されることになっています。発行が近づいたらまたお知らせします。
重い課題をもらって、その後、京都で私の映画をずっと応援してくれている友人と会いました。彼女にそのことを話すと
「日本中に「祝島」はある、だから私達は自分自身の「祝島」のためにたたかいをしなくっちゃねえ」と言うのです。あ〜本当にそうだな、なんていい事を言ってもらったんだろう、と重かった心が少し、軽くなりました。人は人と話しをする時が一番、癒されますね。
(鎌仲ひとみ)