東京新聞・言いたい放談 一歩ずつ(2013・11・6)

2013.11.08

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東京新聞 「言いたい放談」 2013年11月6日(水) 朝刊放送芸能面に掲載
初夏、ある高校の先生から連絡をいただいた。教え子たちがドキュメンタリー映画を作りたいと思っている。ついては作り方を教えてやってくれないか、という。二つ返事で出かけた。
六、七人の高校生が、さまざまな社会問題を議論する活動をしている。彼らは被災地にボランティアに行き、仮設住宅に住む人に自分たちに何ができるだろうか、と聞くと「今回起きたことを忘れないで」と言われたそうだ。
その忘れないという気持ちを映画にしたい、学友たちにインタビューをしてどう思っているかをまとめたいという。彼ら、彼女たちの中には強い意志が感じられたので、映画製作の具体的なプロセスを教えた。その後二回ほど指導したが、ほぼ自力で映画を完成させた。
三十人近くの高校生たちがカメラに向かって自分の思いを率直に語っている。はっきり言ってその思いは「忘れない」というよりは起きた事への距離を感じさせるものも多かった。しかしカメラを向けられ、高校生たちはそこで初めて真剣に考え、正直に答えている姿がそのまま映し出されていた。
保護者から勉強の妨げになると苦情がくるくらいメンバーは製作に没頭したようだ。映画のタイトルは「一歩ずつ一歩ずつ」。忘れない、そしてあきらめない思いが込められている。
(映像作家)
 
次回掲載は11月20日です。
どうぞお楽しみに。